2014/7/21実施 フーゴ・マイヤー プリモプラン 4種 描写テスト
 @最初期ライカマウント50mmf1.9、A50mmf1.5コンタックスマウント、B戦前真鍮58mmf1.9エキザクタ、C戦後アルミ58mmf1.9ライカマウント改造
(The comparison of 4 Hugo Meyer Primoplan lens.)

設計者はStephan RoescheinとPaul Schaefterで、1930年代前半に設計され、1934年から販売されました。 
(Stephan Roescheinは、1936年にSchneider社に移り、Albrecht Toronierの後継者となった人物です。彼は第二次大戦後、独立してRoeschlein-Kreuznach社を
 自ら設立し、Luxon 50mmf2.0などを製造しました。)

レンズ構成は「独特」のものですが、タイプとしては、後にゾナータイプに発展したベルテレ設計の「エルノスター・タイプ」に分類されます。
4群4枚のエルノスター基本形の第2群を「貼り合わせダブレット」に変更した形態ですが、絞りの位置が2群・3群の間にあるのも、エルノスター基本形とは異なります。

生産はまず、ライカマウント5cmf1.9、そしてコンタックスマウントの5cmf1.9が発売され、ほぼ同時期にEXAKTA VP(ナハト・エキザクタ)用の8cmf1.9が
生産されました。
一眼レフへの対応は基本形がエルノスターであることからバックフォーカスが短いという特徴があるため、やや遅れました。 結局、基本設計Lensの5cmでは困難であり、
焦点距離を58mmに延長して、1937年にEXAKTA用レンズとして製造が開始されました。

     
  レンズ画像
Lens outlook 
 
 手前左 : 最初期 ライカマウント
        製造番号 67万番台 (1934-5年)

 手前右 : f1.5 コンタックスマウント
        製造番号 99万番台 (1938-9年)

 後方左 : 戦後 アルミ ライカマウント改造
        製造番号 110万番台 (1949-50年)

 後方右 : 戦前 真鍮 エキザクタマウント
        製造番号 90万番台 (1938年)
 
   特許
Patent 
 
 1936年6月18日付けになっている非常に読みにくい特許原文。

 「4群の明るいレンズ」という定義です。

 最前部と最後部に集光の凸レンズを配し、第二群は凹レンズと凸レンズの貼り合わせで、
 「第1群に近接させる」ことが示されています。
 これによって、第1群集光レンズの直径の1.8倍以下の長さでこの明るさが実現したと、そのコンパクトさと
 明るさが謳われています。
 (おそらく、貼り合わせのない4群4枚のエルノスターとの比較であえて述べているように思われます。)

 また屈折率1.63以上のガラスを使用ということも強調されています。
 (1.63というと、アッベの新イエナガラスの最高屈折率レベルと、ランタンガラスの境い目くらいでしょうか)

 この構成によって、球面収差、コマ収差、色収差、非点収差が補正されたと、記述されておりますが、
 その明快な説明はありません。


     
       @最初期 ライカマウント
    製造番号 67万番台
   Af1.5 コンタックスマウント
    製造番号 99万番台
  B戦前 真鍮 エキザクタマウント
    製造番号 90万番台
 B戦後 アルミ ライカマウント改造
   製造番号 110万番台
画像@
photo @
開放全体画像
Full Aperture
 

f1.9
 

f1.5

f1.9
 

f1.9
 

f1.9
  拡大画像
Partial Enlargemen
 

f1.9
 

f1.5

f1.9
 

f1.9
 

f1.9
<全体画像>

中央部 : いずれの年代も中央のピント部分は非常にシャープです。f1.5レンズの開放では球面収差の補正不足の影響か、若干のフレアが見られます。
周辺部 : @f1.5レンズ開放では、周辺部に放射状の非点収差が強く見られます。エルノスター変形のレンズ構成でのf1.5mの設計にはやはり限界があるものと思われます。
         f1.5の周辺処理には、ゾナーf1.5のように、さらにレンズ(ガラス)を追加して、補正を強化する必要があるます。 f1.9に絞ると、非点収差は急速に収束します。
       A開放f1.9のレンズでは、いずれも周辺に弱い円周上の流れ(ぐるぐるボケ)が見られます。 戦後アルミレンズが比較的目立ちますが、キノ・プラズマートなどと比較すれば、問題にならないくらいの弱いものです。

<部分拡大画像>

ボケ : @後ろボケがもっとも素直で美しいのは、f1.5レンズをf1.9に絞った画像です。 一方で、f1.5の開放では、周辺の放射流れのみならず、球面収差も見られます。
     A開放f1.9のレンズでは、球面収差補正に伴う2線ボケが多少見られます。
      その程度は、戦前真鍮レンズがもっとも顕著で、ついで初期ライカマウント、戦後アルミレンズという順序に思えます。 これは、ある意味、中央部分のシャープネスとの引き換えともいえます。

画像A
photo A
開放全体画像
Full Aperture
 
 

 
 
 拡大画像
Partial Enlargemen
 
 

 
 
<全体画像>

 @f1.5レンズは放射状のボケ、他のf1.9レンズは弱いぐるぐるボケが見られますが、上記同様、戦後アルミレンズが多少目立つ程度で、非常に弱いものといえます。
 A左上部に各レンズの特徴がよく見られます。これは、部分拡大画像のパートで触れたいと思います。

<部分拡大画像>

ボケ : @もっとも顕著なのは、f1.5レンズ開放時の放射ボケです。 この形は、非点収差とコマ収差が合体したものに思われます。 ただし、f1.9にわずか絞るだけで、とてもニュートラルでやわらかいボケに「変身」します。
     Af1.9レンズでは、戦前真鍮レンズに2線ボケがもっとも強く見られます。 ただし、その分画像全体の締まりは、このレンズが秀でています。
     B初期ライカマウントレンズと、戦後アルミレンズは、程よい2線ボケとも言えるかもしれません。
     Cf1.9レンズでは、非点収差成分、コマ収差成分ともにあまり強く見られません。 エルノスターのf2.0からf1.9へと、わずかに明るくしただけで抑えたことが、それらの収差の発現を抑えたといえるかも知れません。

       (さらに比較) エルノスター Ernostar 52mmf2.0 4群4枚 (珍しい貼り合わせのない基本構成の個体)
     
 
     
 
 
 
<全体画像>

 @経年変化のせいか、もしくは8面ある反射面の多さからか、ややフレアの多い画像となっています。 
 Aオリジナルはシネレンズと推定されるため、最周辺の部分は光量が不足しておりますが、合わせて非点収差によるぐるぐるボケがわずかに見られます。

<部分拡大画像>

ボケ : @フレアに隠れて見えにくいですが、周辺部のボケには球面補正による2線ボケがやや強く出ています。 これは4枚目の木漏れ日のボケでわかりやすいと思います。
       プリモプランと比べると、レンズ枚数が少ないことから、収差補正に、より制約があったのではないかと推定されます。
     Aコマ収差はあまり観察できません。 輪帯部のコマ収差はダブルガウス型の特徴ですが、トリプレットの発展形であるエルノスターではうまくコントロールできているようです。

 
 <まとめ>

 @プリモプランはいずれの年代の製造であっても、基本的に「中央部は非常にクリアでシャープ」であり、周辺部に現れる収差も、いずれも穏やかなもので、オールドレンズファンには楽しいレベルと考えられる。
  第2群を貼り合わせダブレットにして屈折面を増やしたことによって、球面収差のより高度なコントロールができているとも思われる。
 A中でも、f1.5開放のレンズは赴きの異なる味わいであり、特にf1.9に絞ったときの描写のニュートラルさは「特筆すべき」ものがある。
 B58mmf1.9レンズでは、多少固めでもよりシャープに描写するのが戦前真鍮レンズであり、戦後アルミレンズは初期ライカマウントにも共通するシャープかつ穏やかな味わいを併せ持つ描写となっている。