2016/5月実施 最古典 ヴィンテージ・レンズ 4種 描写テスト 約4x5サイズ(Fujifilm PRO NS160)

 @シュバリエのレンズ  Chevalier PHOTOGRAPHE A VERRES COMBINES 250mmf5.6
  Aペッツバールが設計した最初のフォクトレンダーレンズ  Voigtlander (original) Petzval lens c150mmf3.5-4 No.2062
  Bルルブールのペッツバール型レンズ  Lerebours et Secretan 6inch
  C珍しいゴーダンのペッツバール型レンズ  Gaudin Petzval lens 6inch

 1839年、ダゲール(Louis Jacques Mande Daguerre)によって写真術が発明され、最初に一般に販売されたジルー商会のダゲレオタイプ・カメラには、シュバリエ(Charles Chevalier)の貼り合わせ単玉レンズが装着されていました。
そしてほぼ同時期に複数のレンズ工房が写真用レンズの製造を始めます。翌1840年に製造が始まったとされるゴーダン(Gaudin)のカメラにはルルブール(Lerebours)設計の貼り合わせ単玉レンズが装着されています。

その後、フランス政府の産業振興協会のコンテストが催され、シュバリエは早々にダゲレオタイプに装着していたダブレット単玉を大幅に改良した「可変焦点レンズPhotograph a Verres Combinesを提出します。一方、ハンガリー生まれでウイーン大学の数学教授ペッツバール(Joseph Petzval)は同じウィーン大学教授のエッティングスハウゼン(Anrease von Ettingshausen)に依頼され、1840年にレンズ設計に着手し、オーストリア陸軍の砲兵隊から計算の得意な者8名を雇うなどして、レンズ収差を考慮した「光線追跡法」を考えだし、ポートレート用色消しレンズを製造しました。それは当時としては驚異的に明るいペッツバールポートレイトレンズ149ミリF3.7で、フォクトレンダー製の総金属製ダゲレオタイプ・カメラに装着されました。このレンズが上記Aと同じものと推定されます。
コンテストの結果はシュバリエが上位でしたが、その後の販売競争ではペッツバールの圧勝となります。

あまり注目されておりませんが、ジルー商会の初期ダゲレオ・タイプカメラには、シュバリエ同様ルルブールのレンズも装着されていました。非常に歴史ある望遠鏡を主力としたレンズ工房ですが、詳細はこのページで確認してください。
ゴーダンは3人兄弟で長兄のMarc Antoineと弟のAlexis Pierreが主に運営していたようですが、このレンズCはAlexisが設計したもので、非常に珍しいものです。ゴーダンについては、このページを参照してください。

なお、今回の画像は、120フィルムによる6x12pの画像を上下分割して撮影し、合体させた疑似10x12p(4x5)サイズとなります。

 
       
  レンズ画像
Lens outlook 
 
 
 左から、
  
    Voigtlander (original) Petzval lens c150mmf3.5-4 No.2062

    Chevalier PHOTOGRAPHE A VERRES COMBINES 250mmf5.6

    Lerebours et Secretan 6inch

    Gaudin Petzval lens 6inch
 
       
     Chevalier PHOTOGRAPHE A VERRES COMBINES 250mmf5.6  Voigtlander (original) Petzval lens c150mmf3.5-4 No.2062   Lerebours et Secretan 6inch  Gaudin Petzval lens 6inch  
画像@
photo @
   
全体画像
original photo
 
 
 
 
 
拡大画像@中央部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
拡大画像A左上部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
拡大画像B右下部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
 
画像A
photo A 
 
全体画像
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拡大画像@中央部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
拡大画像A左上部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
拡大画像B右下部
Partial Enlargemen
 
 
 
 
 
   
<画像評価>

焦点距離 : @シュバリエレンズは約250mm。これは通常では風景用・ポートレート用別々の前群と、後群を組み合わせた2群4枚構成とすることが多いところ、
                      それでは焦点距離が350mm程度まで長くなってしまうので、 前群を2つとも装着した、最も贅沢なバージョンで、3群6枚構成となっています。

         Aシュバリエレンズ以外のペッツバール型レンズは、いずれも6インチ=150mm前後ですが、中でもフォクトレンダーは若干焦点距離が短いようです。


描写 : @シュバリエレンズは「全体的に柔らかい」描写である一方、焦点部分はそれなりにシャープに描写しています。ボケの度合いは大きいですが、その崩れ方は小さく、
                画像を乱れさせる非点収差やコマ収差が比較的少ないように思えます。ポートレートには最適ではないかと思われますが、当時は焦点部分でも発生するフレアが「嫌われ」、
                よりクリアなシャープさがより求められたのかもしれません。

      Aペッツバール型レンズの描写はいずれも似ていて、「中央部は非常にシャープ」、「周辺での画像が崩れる」、「周辺光量が不足気味」という特徴があります。

      Bフォクトレンダーレンズは今回比較した3本のペッツバール型レンズの中では「中程度」に位置する描写で、中央部のシャープさと周辺の画像の流れが「適度」であることから、
                非常に使いやすいレンズと思われます。
        私の想定通り、このレンズが世界最初の金属製ダゲレオタイプ・カメラに装着されていたペッツバール設計の「オリジナルな」レンズと同じものであるとすると、
                 1840-41年のフランス産業振興協会のコンテストで大きな衝撃をもたらしたことは十分理解できます。

      Cルルブールのレンズは、3本のペッツバール型レンズの中では、全体的に最も落ち着いた、美しい描写のレンズでした。
                 中央部付近でも比較的早くボケが始まりますが、その乱れ方は非常に小さく、周辺部に行ってもその乱れ方の程度が拡大しません。
                 「全体写真」を拡大してみても最も「安心な」画像を提供してくれます。

      Dゴーダンのレンズは、3本のペッツバール型レンズの中では「最も暴れ馬」。中央部は非常にシャープですが、周辺部の画像の乱れが非常に強く出ます。
                 とくに非点収差の影響が最も強いレンズでした。