素人レンズ教室−その5 収差(3) コマ収差とは?サジタルコマとは? |
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麗子先生: 今日はコマ収差の勉強よ。 まずはコマ収差の作例ね。 これはHugo Meyer のKino-Plasmat25mmf1.5です。全体写真の左部分を、右に拡大しています。 ボケが見事に三角(矢羽状)になっていますね。 |
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麗子先生: もう一つ同じレンズで以前撮った作例にも見事なコマ収差がありましたのでこちらも上げておきます。 こちらはコマ収差に非点収差の円周上の流れも加わって、横に大きく広がっていますね。 |
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麗子先生: はるかちゃん、ちょっとインターネットでコマ収差の定義を調べてみてくれる? はるか: はい、わかりました。ええっと、 コマ収差とは、Wikipediaで定義を見ると、 「光軸外の1点から出た光が像面において1点に集束しない収差。入射点の光軸からの距離によって 像の倍率が変わるために起こる。コマとは彗星のことで、彗星が短い尾を引くように収差が出るので このように呼ばれる。絞りを絞り込むと緩和する。」 カメラマン写真用語辞典では、 「広い意味での 球面収差 のひとつで、レンズ中心から入る光とレンズ周辺から入る光のズレによって 起きる。画面周辺で画質が低下したり、コマ・フレアという彗星のような形の像が現れることもある。」 などと書いてあるわ。 ジロー: どっちも、現象面については解説してあるけど、読んでもわからないことだらけだなあ。 麗子先生: じゃあ、ジロー、コマ収差に関して疑問に思っていることを全部あげてみて。 ジロー: OK。 @ コマ収差のボケはなんであんな形になるの? A Wikipediaにある「像の倍率が変わるために起きる」ってなに? B コマ収差のボケって、ピントは合ってるの?それとも、ピントもずれてるの? C コマ収差も非点収差や像面湾曲と同じように斜めからの光で起きる現象だけど、どう違うの? D 最近のレンズになってもよく聞く、「サジタルコマ」ってどういうこと? こんなところかなあ? 麗子先生: わかったわ。じゃあ、順番に勉強していきましょう。 でも、@はまさにコマ収差の本質の部分だから、後に回して、Aから行くわね。 コマ収差が発生している光線の状況を「真横」から見た図1を見てくれる。 |
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麗子先生: どう、同じ被写体の光線が、レンズの中心部を通過した時と、周辺部を通過した時で結像する位置が 上にずれていっているでしょう。 もちろん下向きになる場合もあるけれど、この例では、「収差によって、像が徐々に拡大している」という 状態ね。だから像の倍率の収差と言われるのね。 このずれが、例の「矢羽・彗星」のような形になるのだけれど、それは後にして。 下の図1xを見てくれる。 |
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麗子先生: ときどきコマ収差についてこのように書かれている場合もあるわね。 この絵だと、コマ収差が徐々に広がっていくという感覚に、より近いのだけれど、これだけでは 正確ではないわね。 レンズ面全体からの光線を束としてすべてまとめて表すと、結果としてこのような形になるとも思うけど、 単純に像面が湾曲していて周辺光ほどピントが合っていないだけ、みたいに見えてしまうかもしれないわね。 はるか: ということは、コマ収差というものを「単独で」とらえた場合は、収差部分もピントは合っているということですか? 麗子先生: 光線の捉え方によるわ。収差は広がっているわけだから、一般的に光線を束全体として見れば ピントは合っていないわね。だからBはNOね。 ただコマ収差を構造的に理解するためには、光軸からの距離に応じた各光線の像面上の焦点位置の 変動と考えたほうがわかりやすく理解できると思うわ。 はるか: 球面収差でも全体で見ればピントがボケる収差なわけだけど、説明としては各光線の光軸との焦点の 位置の移動として考えているわね。 それと似ているわ。 ジロー: じゃあ、Cは、、、、、。 非点収差というのは、メディオナル面(イメージ=縦の面)と、サジタル面(イメージ=横の面)の光線の 結像位置が「前後にずれる」ことから、縦のボケが前に来るか、横のボケが前に来るかによって、横に 広がる「ぐるぐるボケ」になったり、縦に広がる「放射ボケ」になったりするわけだから、コマ収差の像面上の 変動とは方向も、変動の仕方も違うわけだね。像面湾曲もそのメディオナル・サジタル両面が一緒に前後に ずれるわけだから、、、、勿論コマ収差とは違うね。 はるか: そうすると、非点収差と像面湾曲は「前後(3D)の収差」、コマ収差は「縦横(2D)の収差」と言っても いいかも知れないわね。 でも、そうするとなんであんな変な形のボケになるのかしら? 麗子先生:じゃあ、これをまず見てね。 |
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ジロー: これは円がだんだん拡大しながら上に上がっている絵だけど、、、。 麗子先生: 二人とも少し目を細めて、見てくれる? はるか :あっ、なんとなく矢羽みたいな形に見えるわ。 ジロー: 本当だ。 麗子先生: そう、コマ収差のあの形は、円形のボケが重なってできたものなの。 ジロー: なるほどなあ、でも、じゃあなんで円形になるの? 麗子先生: じゃあ、次にこの図2を見てね。 これは、先ほどの横から見た図を立体的にしたものよ。斜め下から入った光が、レンズの縦中央を 通過して、コマ収差を発生させているイメージね。 |
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麗子先生: つぎの図3は、レンズ中央付近を通過する光のイメージよ。中央付近は収差も少なくて、ほとんど一点 に集まるわね。 |
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麗子先生: 次の図4は、少し周辺を通過する光で、だんだん収差も大きくなってくるわ。 |
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麗子先生: 図5では、さらに周辺になると、さらに大きな円を描くようになるのね。 |
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ジロー: 先生、ちょっと待ってよ。 この図おかしくないですか? はるか: ジロー、どうしたの? ジロー: だって、よく見てよ。 上の図だと、レンズの上(角度0度)を通過した光と、レンズの下(角度180度)を通過した光が、 収差のボケでは、ボケの上(角度0度)のところに集まっていて、一方で、レンズの右(角度90度)と 左(角度270度)を通過した光が、ボケの下(角度180度)のところに集まっているよ。 これじゃあ、ボケは決して円形にはならないよ。半円形(半月)だよ。 はるか: ええっと、、、あら本当だわ。先生どうしてですか? 麗子先生: あら、ジロー、見直したわ。よく気がついたわね。 ジロー: やっぱり、何か裏があるんでしょう、、、。 麗子先生 :じゃあ、この図6を見てね。 |
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ジロー: う〜〜〜ん。わっ! はるか: ボケの方が2倍回転しているわ。 麗子先生: 詳しい理屈はこれ以上説明しないけど、見ての通りよ。 だから、りっぱな「円形」になるのね。 ジロー: それがどんどんどんどん重なっていって、矢羽や彗星に見えるわけかあ。 奥が深いですねえ。 はるか: そうすると、「サジタルコマ」というのは、この矢羽のサジタル面(横面)の広がりのことを言うのですか? ジロー: きっとそうだね。 麗子先生: ブー。大外れ。 ジロー: ええっ違うの? 麗子先生: 矢羽の広がりは、どんな場合も決まっていて、「左右30度ずつの60度」なのよ。 これはこの収差の本質的な現象だから変わらないわ。 もし、コマ収差が60度より広がって見えたりした時は、おそらく非点収差に引っ張られているのね。 はるか: じゃあ「サジタルコマ」って? 麗子先生: この図7を見て。 |
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左図のサジタルコマの結像部分を拡大すると、こうなります。![]() |
ジロー: サジタルコマって、縦ずれのことなんだあ。驚いたなあ。 麗子先生: ある光線がレンズに入った場合、サジタル面のコマ収差の位置は、ボケの底辺部分を指すことになるわ。 サジタルコマとは、この底辺部分が、光線の角度とレンズへ入る位置によって、徐々にずれが大きく なって動いていくという、とってもたちの悪い性質なのね。 もちろん、サジタルコマの大きさの2倍がボケ円の直径になるという関係もあるので、サジタルコマ 自体が円の大きさ=コマ収差全体の大きさを表すと考えても、間違いではないですね。 はるか: 確かに、球面収差では、その中心はいつも中心で動いていないわ。 麗子先生: 球面収差は見方によっては、「きれいな」ボケに結びついていくものともいえないことはないけれど、 サジタルコマのように方向性を持った収差は決して美しいボケには繋がらないし、そもそもピントは 合った状態ですからね。 (矢羽ボケ愛好家の方:申し訳ありません) ジロー: 本当にいろいろなレンズ(とくにダブルガウス型)の特許申請にはサジタルコマ撲滅みたいなスローガンが 書いてあるからなあ。 麗子先生: 今日は長くなったわね。 じゃあ皆さん、今日はここでおしまいです。 |
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