素人レンズ教室-その12 キノ・プラズマート研究レポート (2) |
先生 : 皆さん、さあ午後の授業を始めますよ。 ジロー : グーテン・ターク。 (全員 ガクッ) 先生 : ジロー、変な挨拶しないでよ。みんなちゃんと昼ごはん食べましたか? ジロー : やっぱり、昼にBrat BurstとSauerkrautじゃ重いな。 はるか : ジロー、どうかしてるわよ。なにかというと最近ドイツに被れているんだから。 ジロー : 変だなあ、自然に出ちゃうんだよ。 はるか : いいわ、放課後に私が二人きりで「じ~っくり」直してあげるわ。 先生 : ちょっと、はるかちゃんまで。最近二人ともちょっとませてるわよ。それじゃまるで新婚さんみたいじゃない。 先生 : じゃあ、授業に入るわよ。今日はこの間のキノ・プラズマート(Kino-Plasamt)の研究の続きね。 ジロー、今日は早速「OPT98」の出番よ。 ジロー : キノ・プラズマートの特許に出ていた、別の2つの設計のシミュレーションだね。 らじゃ、らじゃ。分かってますよ。 |
ジロー : この一番目Beispiel 1からデータを入れるよ。 始めにデータシートを出すね。 |
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ジロー : 次が近軸データの計算。焦点距離やf値が出る |
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はるか : 焦点距離はこれも「100mm」だわ。f値は特許の計算のf2.5より少し暗い「f2.64」ね。 これもバックフォーカスが約80mmで前回のBeispiel-3より少し長いけど、使いやすそうね。 ジロー : じゃあ、今度はレンズ形状と光跡の図だね。 |
はるか : これもきれいねえ。 先生 : そうね。右側の図で周辺の像面が少し前に倒れているのがよくわかるわね。 でもBeispeil3よりも暴れ方は少なそうに見えるわ。 ジロー : じゃあ、球面収差見てみますね。 |
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はるか : これは素直な線ね。 最周辺近くで過剰補正方向にかなり振れているけど、3/4くらいまではほとんど真っ直ぐ。 先生 : そうね。でも前回のBeispiel3との違いがもっとあるはずよ。 ジロー : そうだ、色の線が結構バラバラだよ。 先生 : そうね、よく気がついたわ。それから? ジロー : えっ、まだあるの? はるか : SIN条件線と線の形が似ているし、近いわ。 先生 : そうね。少なくとも前回のBeispiel-3よりは、コマ収差は少なそうね。 ジロー : じゃあ、コマ収差っと。 |
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はるか : 先生のいうとおり、ふくらみがかなり小さいわ。それに10度くらいの角度まではほとんど平坦。 先生 : 最周辺ではコマ収差があるけれど、中央付近ではほとんど無いといっても良いかもしれないわね。 ジロー : 次は、非点収差だよ。 |
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はるか : 前回のBeispiel3とは全然違うわ。 ジロー : 先生が言ったとおり、像面がかなり前に傾斜してる。 でもメリディオナル面とサジタル面は極めて近いから、非点収差はあまりないんじゃないかな。 先生 : ジローの言うとおりね。ぐるぐるとか放射状のボケは強くなさそうね。 でもこの像面では周辺に向かってピントがずれて、急速に画像が悪化して行くわよ。 じゃあジロー、スポットダイヤグラムを焦点位置と前後で続けて3枚出してくれる。 ジロー : オッケー。 |
(焦点位置)のスポットダイヤグラム![]() |
(前ボケ)のスポットダイヤグラム![]() |
(後ろボケ)のスポットダイヤグラム![]() |
先生 : はるかちゃん、この結果をどう考えるか、言ってみてくれる? はるか : ①まず焦点位置の画像だけど、球面収差のところで出ていたように、色収差がかなり大きいので、中心部でもあまり、 ピントがよくないみたい。 ②像面が前方に湾曲しているので、周辺部はもっと画像が悪化しているわ。 ③むしろ、前ボケの周辺部のピント精度が最も高いみたい。もし一眼レフで使っていたら、ここでピント合わせを してしまいそう。 ④後ろボケは少し潰れているけど、比較的なだらかで、これではぐるぐるの度合いは低そうね。 先生 : なかなか良いポイントを上げているわね。さすがはるかちゃんね。 じゃあ、ジロー、続けてBeispiel-2もやってみようか。 ジロー : なんだ、はるかばかり誉められて。僕はただのオペレーターみたいだな。 先生 : なにひがんでいるのよ。早くやりなさい。 ジロー : はいはい。じゃあ、全部続けて出すからね。 |
Beispiel-2 |
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(焦点位置)のスポットダイヤグラム![]() |
(前ボケ)のスポットダイヤグラム![]() |
(後ろボケ)のスポットダイヤグラム![]() |
先生 : じゃあ、今度はジローが評価してみて。 ジロー : ①焦点距離はこれも同じ100mmだね。でもf値は1.76で一番明るいレンズになっている。 ②球面収差はかなり過剰補正に傾いている上に、色収差も大きい。 だからピント面でもかなり滲んでソフトになりそう。 ③周辺部ではコマ収差もかなり大きい。 ④像面湾曲は、このレンズもかなり大きく前に傾斜しているね。 非点収差はそれほどでもない、この辺はBeispiel-1に似ている感じ。 ⑤全体的には画面全体であまりはっきりしない描写みたい。 先生 : ジローの言うとおりね。確かにこの特許段階でのf値が最も明るいレンズだから仕方ない部分もあるかもしれないわね。 二人は次回までに、なぜ最終的にはBeispiel-3が採用されて生産されたのか考えてきてね。 答えはないわ。先生と二人の想像力の勝負よ。 じゃあ、今日はここでおしまいね。 みんな : 先生ありがとうございました。 その晩、はるかはなかなか寝付けず、明け方になってやっと眠りにおちた。 そしてこんな夢をみた。 まず、夢に現れたのは、この前教室で見たキノ・プラズマートの広告の文章だった。 それらが、頭の中を駆け巡った。 このKino-Plasmatは、f1.5あるいはf2.0という驚くべき明るさにもかかわらず、、、 著しい球面色収差の差が明白、、、 このレンズの明るさは照明装置の節約、、、 超大口径によって、最新の小型カラー写真(ライカ)も含む、 そして次に夢に浮かんできたのが、どこかの会議室場所の光景だった。 エンジニア(a) : 我々の意見としては、最終的に生産するデザインは、「Beispiel-1」にすべきだというのが結論です。 ルドルフ博士 : みんなの意見は分かった。まずその根拠を聞かせてくれ。 エンジニア(b) : 第一に描写面ですが、球面収差とコマ収差がBeispiel-1が他のタイプに比べて優れています。 像面の湾曲はかなり強いですが、それは他のタイプもそれほど差がないと思われます。 エンジニア(a) : Beispiel-3は像面湾曲自体は他のタイプより優れていますが、その分非点収差として周辺を悪化させいます。 ルドルフ博士 : ただ、このBeispiel-1はf値が2.5程度だよ。シネ業界から求められているのは「f1.5-f2.0」という今まで 「類を見ない明るさ」だ。Beispiel-1で達成できるかね? エンジニア(b) : Beispiel-1は構造が非常に「シンプル」ですから、前群をより大型化すれば達成可能だと考えています。 エンジニア(a) : しかも、このタイプはレンズに貼り合せの無い4枚ですので、非常に「コストが安い」です。 今の会社には、収支効果も非常に重要だと思います。 ルドルフ博士 : なるほど、みんなの意見は尤もだ。 (しばらく考える) ルドルフ博士 : 私の結論は、「Beispiel-3」だ。 エンジニアたち : ええっ、なんでですか? ルドルフ博士 : 君たちは映画を見る時、何処を見ている? エンジニア(a) : 勿論スクリーンの映像ですが。 ルドルフ博士 : そうじゃない。スクリーンの何を見ているかということだよ。もっとはっきり言うと、 主人公を見ているのか、それとも周辺の映像の質を見ているのかということだ。 エンジニア(b) : 分かりました。先生のポイントは、まずシネレンズはピント部分の精度が最も重要だということですね。 ルドルフ博士 : そうだ。主人公の映像を悪化させる要素は極力排除しなくてはならん。 その場合、色収差はせっかくのピントを大きく悪化させる要素になる。 エンジニア(a) : Beispiel-1の球面色収差はそれほど大きいようには思えませんが。 ルドルフ博士 : 確かにf2.6の段階ではそう見えるかもしれん。 ただ、みんなも知っているように、球面収差は口径の「3乗」に比例して悪化する。 果たして、f1.5まで拡大して、この球面色収差で収まるとはとても思えんな。 この色収差がスクリーン上で数千倍に拡大されて映るということを考えなくてはいかんな。 一方で、Beispiel-3はすでにf1.9まで口径があるにもかかわらず、色収差は良好だ。 これなら主人公も中心ならかなりはっきり映る。しかも最近、写真の分野では色付きの技術も開発されているらしい。 Beispiel-3の非点収差には困ったものだが、非点収差はレンズ口径には「1乗」で変化するから、f1.5にしても それほどの悪化は見られんだろう。 エンジニア(b) : コストの問題はどうしますか? ルドルフ博士 : はっはっ、映画業界はこの程度のコスト増はなんとも言わんよ。 はるかはここで目が覚めた。外はすでに明るい。今はちょうど新緑の季節。 キノ・プラズマートを十分に絞り込んで、この新緑を撮ったらきれいだろうなと思った。 そうだ、今度の日曜日にジローを誘って行ってみよう、、、、、、、。 キノ・プラズマート研究ノート(終わり) |
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