素人レンズ教室-その17 「ゾナーはどこから来たのか?」 |
||||||
ジロー : おっす、おはようさん。 あれ?どうしたんだ、みんな? はるか、なんだ指なんか出して、突き指でもしたか? はるか : ジロー、あっちあっち。黒板見なさいよ。 ジロー : うん? 「今日と明日は先生は留守にします。机の上の教材で自習してください。」 ジロー : おっと、しめた。 はるか : 何言ってんのよ。麗子先生どうしたのかしら?病気じゃないといいけど。 それに机の上に乗っている教材って、全部英語みたいよ。 これをどうしろというのかしら? その時教室のドアが開いて、誰かが入ってきた。 「グーテン・モルゲン」 はるか : カール、それにアリーナちゃん? ジロー : おお、愛しのアリーナちゃーん、ハグハグ。(と、抱き着こうとしてはるかに頭を叩かれる。) はるか : ひさしぶりねえ、どうしたの今日は突然? アリーナ : おじいちゃんが突然日本で開かれる学会に呼ばれて、お前たちも来たいか?と訊かれたので、 そのままついてきてしまったのよ。 連絡する暇もなくてごめんなさい。 はるか : 大歓迎よ。でも今日は先生がいないわ。 カール : お休みかあ。残念だなあ。 ジロー : 先生、どうしたのかなあ? アリーナ : 私、この間日本に来た時に、タマラ先生から、麗子先生は今、日本に住んでいるフランス人の彼氏が いると聞いたことがあるわ。もしかしたらその関係かしら? ジロー : そんなこと詮索してもはじまらないよ。早く自習終わらせて遊びにいこう。 はるか : それもそうね。 カールとアリーナも手伝ってくれる? カール、アリーナ : もちろんさ。 はるか : 資料の上になにかメモがあるわ。 ジロー : どれどれ、 「ここにある資料を読んで、トリプレットからゾナーに至る系譜を解き明かしなさい」 ジロー : ええ?嘘でしょ。やっぱり麗子先生は厳しいなあ。 こんなことじゃきっと彼氏にふられちゃうよ。 はるか : 無駄口叩いてないで、早速資料を広げなさいよ、ジロー。 ジロー : はいはい。 |
||||||
ジロー : ええ!?、全くわからないよ。英語も苦手だしなあ。 はるか : 本当ね。困ったわ。 ね、こうしない。 これから、私とアリーナ、ジローとカールの2つに分かれて、チームで研究してくるのよ。 そのほうが、英語もわかりやすいし、早いわ ジロー : (カールと一緒かあ、でもはるかとカールがペアになるよりいいな。) OK、そうしよう。 はるか : じゃあ、明日持ち寄ってまとめましょう。 (次の日) はるか : どうカール、ちゃんとできた? カール : まあまあね。ジローに知識もなかなかのもんだよ。 アリーナ : 良かったわ、じゃあ早速順番に発表していきましょう。 ジロー : 了解、じゃあ時代順に行くよ。 まずは、1900年のEdward Bauschのレンズの特許だよ。 |
||||||
はるか : 1900年ということは、テイラーのトリプレットから7年後ね。 4枚のガラスを独立して配置することで、収差のない明るいレンズを設計しようとしたのね。 アリーナ : トリプレットとの関連については、特許には触れられていないけど、レンズ構成図を見る限り ではトリプレットの2群と3群の間に片凸レンズを追加して明るさを追及したように見えるわ。 カール : それはよくわからないね。 ただ、一つ一つのレンズの屈折率がすべて異なった設計になっていて、製品としては結構 手がこんでいる感じだ。 ジロー : 1900年代初頭のEmpire State No. 2 Eastman Kodak Cameraなどに装着されていた Bausch & Lomb 8 x 10 Plastigmat Lens Pat. October 30, 1900 がデータ的には合致 するけど、どんな画像かどうかは確認できないなあ。それに開放f値もあまり明るくはなさそう。 はるか : それに比べて、同じ様にトリプレットの後群に凸レンズを挟んだ1924年のスピーディックでは、 3枚の凸レンズはすべて「同じ屈折率と同じ分散」のガラスを使用しているから、効率的だし、 実際にf2.5のレンズを見ることができるわ。 カール : スピーディックの特許も出しておくね。
アリーナ : じゃあ次に行ってみましょう。 次はウルトラスティグマートね。 |
||||||
ジロー : エルノスター基本形(4群4枚)によく似ているね。 はるか : そうねえ、BauschやLeeのレンズと異なって、前群の凸レンズを分離しているところは 共通点だとは思うけど、でもなんとなくエルノスターとは雰囲気が違う感じがするわ。 アリーナ : 確かにMinorの1910年の特許を見ると、トリプレットとは異なるさまざまなレンズ構成で 明るいレンズを試しているわ。 トリプレットの派生とは言い切れないと思うわ。 ジロー : 2群の凸レンズと3群の凹レンズの間の凸の空気間隔(空気レンズ)で球面収差の補正を行う なんて、まったくズミクロンの先取りだね。 実際Ultrastigmat50mmf1.9レンズで撮影してみると、周辺部はまだまだ収差が残っているけど、 立体感のある素晴らしい写りだよ。 カール : ズミクロンの40年も前だよ。アメリカ人も侮れないなあ。 はるか : じゃあ、エルノスターも見て、違いを検証してみましょう。 |
||||||
アリーナ : ベルテレはこれを「3群レンズ」と言っているのね。 ジロー : やっぱり、トリプレットがベースだな。 はるか : 前群を2群に分けて明るくしつつ、あわせて、分散の異なる組み合わせの貼り合せレンズとすることで、 収差を抑えているのね。 ただ、前群(ベルテレの言う第1群)だけの変化で、明るさも、それによって拡大する収差の課題も解決 しようと試みている点では、まだトリプレットの派生変化形の範囲にいるかもしれないわ。 カール : とにかく、比重が前群にあるというのが、大きな特徴だね。 ジロー : はるかの言うとおり、ウルトラスティグマートとは、イメージが違うな。 カール : ウルトラスティグマートがシネレンズとしてがあまり大きな画角を必要としなかったのに対して、 エルノスターはスティルカメラ用だったことも違いの要因かもしれない。 はるか : じゃあ、わたしたちの結論はウルトラスティグマートとエルノスターは、特に4群4枚のエルノスター基本形とは 最終的な構成は類似しているけれど、デザインの発想やアプローチはちょっと違うということで良いかしら? 3人 : 賛成。 |
||||||
ジロー : 今度はゾナーに似てきたぞ。 カール : 第2群の3枚貼り合せに惑わされてゾナー型と判断しやすいんだよ。 早合点だな、ジローは。 ジロー : 「似てきた」って言っただけだよ。 アリーナ : まあまあ、二人とも喧嘩しないで。 はるか : 今度はベルテレ自身が、このレンズは「4群構成」と言っているわね。 第1群と第2群の性格付けがはっきり分離したからかしら。 カール : 初期のエルノスターでは第1・第2の両方で色収差の補正を行っていたけど、こっちは 第2群だけで完結させているね。 この構成でより広い画角と明るさを求めたようだよ。 はるか : こちらも中央の凹レンズと最後群の凸レンズにはほとんど触れられていないわね。 トリプレットって偉大だったのねえ。 じゃあ、最後はゾナーね。 |
||||||
アリーナ : ベルテレ自身が言っているように基本はやはりトリプレットなのね。 でも、明確に重点は第3群に移っているわ。 ジロー : なになに、「第3群は貼り合せレンズ」じゃなくてはならない。 それに第3群の「貼り合せ面の向き」まで決められているよ。 アリーナ : ということは、エルノスター型がゾナー型かを判別するときに、まず注目しなくてはいけないことは、 最後群の作り方だということね。 カール : そうだね。 まず、ゾナーは最後群が貼り合せでないといけないということだね。 その後実際販売されたゾナーでは、最後群はf2.0レンズが2枚貼り合せ、f1.5レンズが3枚の 貼り合せになっている。 はるか : だけど、もともとあまり大口径を想定していなかったトリプレットを明るくするために、第1群に 強い凸のパワー、第2群にマイナスのパワーを与えたことで、全体的にテレフォト性格になり、 画角とバックフォーカスの制約を受けてしまったわけね。 ジロー : でも、その制約の範囲内であれば、同じ時期のダブルガウス型に比べて、画像もクリアでボケも 素直で、僕は結構好きだな。 カール : そういう意味では、コーティングとか非球面などの技術が生まれる以前のエルノスター、ゾナーも とてもすっきりした描写だね。 アリーナ : 最近試したウルトラスティグマートも「これが1916年のレンズ?」と声が出るくらい驚いたわ。 はるか : 今はエルノスター・ゾナー系統の新しいレンズがあまり見られなくなって残念だけど、オールドレンズ を使うときは、少なくとも私たちはその時代の設計者たちがなにをどう目指してきたのかをできるだけ 理解して使いたいわね。 先生にもそうレポートしましょう。 みんな : 賛成。 (次回に続く) |
||||||